技術・人文知識・国際業務
どのような場合に「技術・人文知識・国際業務」が許可になるか(海外の大学卒業者編)
数ある就労ビザで代表的なものが「技術・人文知識・国際業務」です。「技術・人文知識・国際業務」は事務職などのいわゆる”ホワイトカラー”の職務内容を行う方が取得できる在留資格になります。
取得のためには、日本の会社と雇用契約などを結んでおり、実際に行うことになる仕事内容と関連する学科を専攻して大学や専門学校を卒業していることや、日本人が同じように働いた場合と同等額以上の報酬を受ける契約内容であることなどが求められます。
出入国在留管理庁はそのWebサイトで許可・不許可の事例を紹介していますが、ページの都合上具体例は簡潔に書かれており、実際にどのような場合に条件を満たすのかの判断はなかなか難しいところがあります。
そこで、このページでは出入国在留管理庁のWebサイトの許可・不許可の事例について、なぜ許可・不許可になるか、当事務所の見解を添えて解説していきます。あくまで当事務所の見解のため別の解釈も可能な点はご了承ください。
海外の大学を卒業した方の許可事例 引用元:出入国在留管理庁のWebサイト
下記の事例はすべて海外の大学卒業者の方が「技術・人文知識・国際業務」ビザを申請した場合について取得が許可された事例になります。総じて大学卒業の方の場合には、他の専門学校卒業の方や実務経験での証明をする方と比べて許可されやすい傾向があります。
なお、報酬については同社に勤務している他の日本人の方との比較によるため、参考程度にお考え下さい。同じ金額でも申請する会社の状況によっては不許可になる可能性があります。そのため、以下の当事務所の見解では報酬については触れていません。
【事例1】
本国において工学を専攻して大学を卒業し、ゲームメーカーでオンラインゲームの開発及びサポート業務等に従事した後、本邦のグループ企業のゲーム事業部門を担う法人との契約に基づき、月額約25万円の報酬を受けて、同社の次期オンラインゲームの開発案件に関するシステムの設計、総合試験及び検査等の業務に従事するもの。
工業系の大学を卒業している場合、技術者等で「技術・人文知識・国際業務」を取得する方が多いかと思います。このケースでは”オンラインゲームの開発案件に関するシステムの設計、総合試験及び検査等の業務業務等に従事”と工学を大学で学んだことの間に職務内容に関連性があると認定されています。
”工学”は科学技術を用いて工業生産に用いる学問の総称です。そのため、単に工学というだけでは機械工学、土木工学、電子工学などの様々な内容が考えられます。しかし、関連性があるかどうかの審査基準は、大学の場合には専門学校を卒業した場合に比べてかなり緩やかです。そのため、ゲームの開発会社であれば大学で専攻した内容が「情報科学・情報工学科」であることが理想ですが、そうでない場合にも大学での履修状況によっては許可を得ることができる可能性があるため、工学という広い範囲で記載されているのだと思います。
【事例2】
本国において工学を専攻して大学を卒業し、ソフトウェア会社に勤務した後、本邦のソフトウェア会社との契約に基づき、月額約35万円の報酬を受けて、
ソフトウェアエンジニアとしてコンピュータ関連サービスに従事するもの。
【事例1】では省略しましたが、”本国”とは外国人の方の母国の事です。海外の大学を卒業した場合にも日本の大学を卒業しているのと同様に扱われます。ただし、”大学を卒業している”と評価されるためには母国での大学卒業時に「学士」のような学位を取得している必要があります。
日本の大学を卒業した場合には自動的に取得するのが通常です。しかし、例えば中国や韓国の2年制の専科大学の場合、卒業してもそれだけでは学位は取得できないため、ビザ申請において”大学を卒業した”と判断されません。中国、韓国の方を雇用する場合には卒業証明書を確認し、「学士の称号を付与する」などの文言があるかをご確認ください。
なお、本事例でもソフトウェアエンジニアとして勤務するのであれば大学で専攻した内容が「情報科学・情報工学科」が理想ですが、そうでない場合にも情報処理関係の単位を取得していれば許可の可能性は十分あります。
【事例3】
本国において電気通信工学を専攻して大学を卒業し、同国にある日本の電気通信設備工事業を行う会社の子会社に雇用された後、本邦にある親会社との契約に基づき、月額約24万円の報酬を受けて、コンピュータ・プログラマーとして、開発に係るソフトウェアについて顧客との使用の調整及び仕様書の作成等の業務に従事するもの。
一見「企業内転勤」の在留資格に該当するように見えますが、企業内転勤の場合は一定期間の”転勤”であるため日本の会社と新規に契約を結ぶ必要はありません。このように新規に契約を結んだ場合には「技術・人文知識・国際業務」が該当します。
本事例では電気通信工学を専攻して大学を卒業し、その知識を活用すことでより具体的かつ適切に顧客と使用の調整や仕様書の作成等の業務を行うことができるため、大学で学んだ内容を生かした職務内容として関連性があると判断されています。
【事例4】
本国において機械工学を専攻して大学を卒業し、自動車メーカーで製品開発・テスト、社員指導等の業務に従事した後、本邦のコンサルティング・人材派遣等会社との契約に基づき、月額約170万円の報酬を受けて、本邦の外資系自動車メーカーに派遣されて技術開発等に係るプロジェクトマネージャーとしての業務に従事するもの。
機械工学を専攻して大学を卒業したからといって技術者にしかなれないわけではありません。本事例のように”技術開発等に係るプロジェクトマネージャーとしての業務”も大学で学んだ内容を生かした職務内容と関連性があると認められます。
プロジェクトマネージャーはプロジェクトの企画から計画の立案、人材や費用の確保、進捗の管理などを行います。 プロジェクト全体の進行に注意を払い、トラブルが発生した場合はそれに対処することが主な仕事内容です。この際、技術開発等のプロジェクトマネージャーであれば、当然ながらその職務の適切な遂行のために専門的な知識が求められます。したがって、このような場合にも関連性があると判断されることになります。
また、本事例のように派遣会社に勤務して「技術・人文知識・国際業務」のビザを取得するも可能です。この場合、派遣先の会社での職務内容と学歴との関連性を求められます。ただし、雇用契約は派遣元と結ぶため、提出する雇用契約書等の提出書類は派遣元のものになります。
【事例5】
本国において工学、情報処理等を専攻して大学を卒業し、証券会社等においてリスク管理業務、金利派生商品のリサーチ部門等に所属してシステム開発に
従事した後、本邦の外資系証券会社との契約に基づき、月額約83万円の報酬を受けて、取引レポート、損益データベース等の構築に係る業務に従事するも
の。
工学、情報処理等を専攻して大学を卒業した場合、”システム開発”という職務内容でも「技術・人文知識・国際業務」の取得が可能です。
ただし、システム開発を主業務として申請する場合、その職務の性質から勤務先の会社に一定の規模が求められます。小規模の会社ではそれほど高度なシステムの開発は必要ないと判断されやすいためです。また、外国人の方が実際に申請書に記載された仕事を行うのであれば、当然ながら十分な業務量があることが必要になります。そのため、会社の規模によってはたとえシステム開発の必要性があっても業務量自体が少ないと判断され、申請書に記載されていない業務も行うのではないかと疑われる場合もあります。
ビザ申請の判断はあくまで個別ケースごとの判断のため明確な数字をあげることは難しいですが、10人以下の会社の場合には少し厳しいかもしれません。この場合、システム開発以外のプロジェクト管理のような仕事も併せて任せることをお勧めいたします。なお、同ケ-スで専門学校卒業であれば不許可になるケースが多いです。
また、本事例で”証券会社等においてリスク管理業務、金利派生商品のリサーチ部門等に所属してシステム開発に従事した後”とありますが、これはおそらくシステム開発という特に重要な仕事であるため、実務経験がある方であることが望ましいということだと思います。
【事例6】
本国において電気力学、工学等を専攻して大学を卒業し、輸送用機械器具製造会社に勤務した後、本邦の航空機整備会社との契約に基づき、月額約30万円の報酬を受けて、CAD及びCAEのシステム解析、テクニカルサポート及び開発業務に従事するもの。
子のケ-スでは電気力学、工学等を専攻して大学を卒業し、CAD及びCAEのシステム解析、テクニカルサポート及び開発業務に従事する場合に大学で学んだ内容と職務内容に関連性が認められています。
CADは設計などの支援ツ-ル、CAEは実験などのシミュレーションツールです。設計にしても、実験にしても、製図や化学等に関する基礎的な知識がなければツールを用いても適切に行うことはできません。このように業務に必要な道具を用いるのに大学で学んだ知識が活用できる場合にも関連性があると判断されます。これに対して、単にマニュアルを読めば誰にでも使用できる道具を用いる場合には単純作業とみなされ、許可が得られない場合があります。
また、勤務する会社の規模にもよりますが、工事会社や整備会社に理科系の大学を卒業した方が技術職として勤務し「技術・人文知識・国際業務」の取得をする場合には”現場で作業しない”という事を入管にアピールする必要があります。具体的には「雇用理由書」などを提出し、その職務内容を丁寧に説明すると良いでしょう。
【事例7】
本国の大学を卒業した後、本邦の語学学校との契約に基づき、月額約25万円の報酬を受けて、語学教師としての業務に従事するもの。
大学で教教える場合には「教授」の在留資格に、中学校や高校で教える場合には「教育」の在留資格になります。これに対し、本事例のように民間の語学教室で母国語を教える場合には日本人の配偶者等や家族滞在でのアルバイトなどもありますが「技術・人文知識・国際業務」の在留資格が一般的です。
語学教師は基本的に「技術・人文知識・国際業務」のうち「国際業務」に該当します。この国際業務に該当し、中でも語学の指導が職務内容である場合であれば大学を卒業しているだけで条件を満たします。本事例で大学で学んだ内容が記載されていないのはそのためです。条件がシンプルなためか、この申請は他の職務内容に比べて比較的許可が出やすい傾向があります。
なお、大学で日本語を専攻し、日本語学校の講師として勤務する場合は「国際業務」ではなく「人文知識」として審査されます。そのため、この場合には大学で学んだ内容と職務内容に関連性が必要になります。
【事例8】
経営学を専攻して本国の大学院修士課程を修了し本国の海運会社において、外航船の用船・運航業務に約4年間従事した後、本邦の海運会社との契約に基づき、月額約100万円の報酬を受けて、外国船舶の用船・運航業務のほか、社員の教育指導を行うなどの業務に従事するもの。
本事例では大学院で学んだ内容は”経営学”ですが、外国船舶の用船・運航業務のほか、社員の教育指導を行うなどの業務で関連性が認められています。
確認ですが、用船業務は船を用意する仲介業務、運航業務は運航管理をする業務です。どちらも船を操作する業務ではありません。仲介業務や管理業務といったホワイトカラ-の職務内容である事から「技術・人文知識・国際業務」が取得できている点にご注意ください。
また、「技術・人文知識・国際業務」では社員の教育業務もその範囲に入ります。”外航船の用船・運航業務に約4年間従事した後”と記載があるのは、社員の教育業務を職務内容とするのであればそのような経験の裏づけがあることが望ましいということだと思います。
【事例9】
本国において会計学を専攻して大学を卒業し、本邦のコンピュータ関連・情報処理会社との契約に基づき、月額約25万円の報酬を受けて、同社の海外事業本部において本国の会社との貿易等に係る会計業務に従事するもの。
大学で学んだ内容が会計学であるにも関わらず、コンピュータ関連・情報処理会社で許可が出ているケースです。
これはコンピュータ関連・情報処理会社であっても申請人の方が実際に行う職務内容が本国の会社との貿易等に係る”会計業務”であるからです。「技術・人文知識・国際業務」の学歴と職務内容の関連性の判断は会社の事業内容ではなく実際に行う仕事の内容によって判断されます。本事例のように大学で会計学を専攻して職務内容が同じ会計業務であれば、問題なく関連性が認められるでしょう。
”申請人の方の母国との貿易に関する軽々業務”という点も高く評価されます。「技術・人文知識・国際業務」の申請ではその職務を行う方が外国人の方である必要性も審査の基準になっているからです。
このように、大学で学んだ内容と関連性のないことを事業内容としている会社であっても許可を得ることができる場合もあります。
【事例10】
本国において経営学を専攻して大学を卒業し、経営コンサルタント等に従事した後、本邦のIT関連企業との契約に基づき、月額約45万円の報酬を受けて、本国のIT関連企業との業務取引等におけるコンサルタント業務に従事するもの。
この事例では大学で専攻した経営学と業務取引等におけるコンサルタント業務に関連性があると判断されています。
本事例では”経営コンサルタント等に従事した後”と記載がありますが、おそらくは経営コンサルトのような職務内容であればその仕事についての経験があるのが望ましいということだと思います。未経験の方であっても許可を取ることは可能ですが、なぜわざわざ未経験の方を雇用するのか、その理由について論理的な説明が必要になるでしょう。
【事例11】
本国において経営学を専攻して大学を卒業した後、本邦の食料品・雑貨等輸入・販売会社との契約に基づき、月額約30万円の報酬を受けて、本国との取引業務における通訳・翻訳業務に従事するもの。
本事例は、大学で学んだ内容が経営学であるののにもかかかわらず、本国との取引業務における通訳・翻訳業務がその関連性を認められています。これは通訳・翻訳業務が「国際業務」の通訳・翻訳の業務に該当するためです。
国際業務の場合には大学等の卒業がビザ取得の条件になっておらず、その代わりに3年間の実務経験が求められます。しかし、大学を卒業した場合で翻訳や通訳などを職務内容とする場合にはこの実務経験が不要になります。この場合、大学で学んだ内容が翻訳や通訳に関係があるかどうかは求められません。
したがって、本事例のように経営学を専攻して大学を卒業した場合であっても、翻訳や通訳などを職務内容とすることは可能です。
【事例12】
本国において経済学、国際関係学を専攻して大学を卒業し、本邦の自動車メーカーとの契約に基づき、月額約20万円の報酬を受けて、本国と日本との間のマーケティング支援業務として、市場、ユーザー、自動車輸入動向の調査実施及び自動車の販売管理・需給管理、現地販売店との連携強化等に係る業務に従事するもの。
本国と日本との間のマーケティング関係の業務内容は一般的に「国際業務」に分類されます。本事例では翻訳、通訳業務でもないため、本来であれば3年間の実務経験が必要となり、大学卒業後すぐに行うことはできないように思えます。
しかし、本事例では大学で学んだ内容が”経済学、国際関係学”であるため、大学で学んだ内容と職務内容に関連性があると言えます。そのため、このような場合には「国際業務」ではなく、「人文知識」として審査されます。したがって、大学で学んだ内容と職務内容に関連性が求められる反面、3年間の実務経験が不要になるため許可の判断がされています。
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【略歴】
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【所属・保有資格】
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