ホテル・宿泊業で外国人の方を雇用する場合、どのような就労ビザがあるのか?

近年、訪日外国人旅行者数は増大し続けており、その結果としてホテル・宿泊業で外国人の方を雇用したいとうニーズが高まってきました。

この点、外国人の方が日本で就労する際は仕事内容にあったビザを取得している必要があります。

ホテル・宿泊業の仕事は、 客室の予約受付や宿泊客の接遇、ホテル内のレストランでの接客やルームサービス、結婚式やパーティーなどの手配や準備、人事、経理、広報などのバックオフィス業務、レストランや宴会で提供する料理を作る仕事などが考えられます。

これらの仕事内容に対応するビザは次のようなものが考えられます。

a)技術・人文知識・国際業務
b)特定活動(46号)
C)特定技能
d)技能(調理技能ビザ)
e)日本人の配偶者等や永住許可などの身分系在留資格
f)資格外活動許可のある家族滞在・留学ビザなど

それぞれの在留資格によって就労可能な仕事内容の範囲やビザ取得のための条件が異なっています。以下、それぞれについて簡単に見ていきます。

a)技術・人文知識・国際業務

外国人の方を雇用する場合、まず最初に考えられるのが就労ビザの代表ともいえる「技術・人文知識・国際業務」です。この在留資格は、人事、経理、広報などのバックオフィス業務などのいわゆるホワイトカラ-の職務内容に従事する場合に取得できます。

「技術・人文知識・国際業務」を取得するには申請人の外国人の方の学歴・経歴と従事する職務内容に関連性があることが求められます。ホテル・宿泊業の場合には大学の経済学部や商学部を卒業している方の場合には許可を取得しやすいでしょう。

専門学校を卒業している場合にも「技術・人文知識・国際業務」の取得は可能ですが、大学を卒業している方と比較して学歴・経歴と従事する職務内容に関連性の判断は厳しくなります。例えば、大学を卒業している方の場合、経済学部や商学部を卒業していない場合でも会計やマーケティングに関する単位をある程度取得していれば許可される可能性がある一方、専門学校を卒業している方は学校で学んだ内容の大半がそういったバックグオフィス業務に関する内容でないとビザの取得ができません。

ただし、2024年2月29日開始の外国人留学生の方の「外国人留学生キャリア形成促進プログラム」に認定される専門学校を卒業した方は一部の就労ビザ取得に関して大学卒業と同等レベルとして取り扱われます。したがって、「外国人留学生キャリア形成促進プログラム」に認定される専門学校を卒業した方が「技術・人文知識・国際業務」のビザを申請する場合の学歴・経歴と就労開始後に行う職務内容の関連性の判断は大学卒業の方と同様に柔軟に判断されます。

なお、ホテル・宿泊業は宿泊客の接遇やルームサ-ビスなどの単純作業が身近にあります。そのため、「技術・人文知識・国際業務」で申請する場合、入管は単純作業も行うのではという疑いを必ず持ちます。申請の際には「雇用理由書」などでこの疑惑を払拭する必要があります。

「技術・人文知識・国際業務」では単純作業を行うことができないため、ホテル・宿泊業で外国人の方を雇用する場合には人事、経理、広報などのバックオフィス業務を担当することを前提にした採用しかできないという問題があります。この点、採用してから業務を振り分ける形になることの多い通常の日本人雇用と異なります。しかし、他のビザに比べていろいろな意味で比較的取得しやすい在留資格になるため、就労ビザの中ではこのビザで働いている方が最も多いが実情です。

b)特定活動(46号)

特定活動には様々なものが含まれますが、近年特に注目されているのがこの「特定活動46号」です。この在留資格は日本の大学を卒業した外国人留学生が、高い日本語能力を活用することを要件として幅広い業務に従事する活動を認める、2019年5月に新設された比較的新しい在留資格になります。

この在留資格の最大の特徴は一定の場合に単純作業も行うことができる点にあります。「技術・人文知識・国際業務」の在留資格では単純作業と見なされる客室の予約受付や宿泊客の接遇、ホテル内のレストランでの接客やルームサービスなどを行うことはできませんが、特定活動46号の場合にはこれらの業務も行うことができます。ただし、無制限に単純作業を行うことが認めれているわけではありません。あくまで主な業務は”日本語を用いた円滑な意思疎通を要する業務”でかつ”大学で学んだ内容に関連する業務”である必要があります。それに付随した単純作業であれば認められます。

一見非常に便利に思える在留資格なのですが、欠点もあります。それは取得条件がかなり厳しい点です。このビザの取得条件は次のようになります。

【特定活動(46号)の取得条件】
(1)短期大学を除く日本の大学を卒業しているか、または大学院の課程を修了して学位を授与されている
(2)日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬である
(3)日本語能力試験N1又はBJTビジネス日本語能力テストで480点以上
(4)日本の大学または大学院において修得した広い知識及び応用的能力等を活用するものと認められる業務内容で正社員・契約社員として勤務すること

かなり厳しい条件のため、取得できる外国人の方はあまり多くはありません。

C)特定技能

「特定技能」制度は、国内人材を確保することが困難な状況にある産業分野において、一定の専門性・技能を有する外国人を受け入れることを目的とする制度です。特定技能の取得条件として、育成就労からの変更の場合を除き、申請者本人が業務に関する特定技能評価試験に合格してかつ日本語能力試験でN4以上を受けている必要があります。

”国内人材を確保することが困難な状況にある産業分野”とされているのは16分野あり、その中に宿泊業が含まれています。この「特定技能」で従事することができる主な業務は次のようなものになります。

【特定技能(宿泊業)で従事することができる主な業務】
・フロント業務(チェックイン/アウト、周辺の観光地情報の案内、ホテル発着ツアーの手配 等)
・企画・広報業務(キャンペーン・特別プランの立案、館内案内チラシの作成、HP、SNS等による情報発信 等)
・接客業務(旅館やホテル内での案内、宿泊客からの問い合わせ対応 等)
・レストランサービス業務(注文への応対やサービス(配膳・片付け)、料理の下ごしらえ・盛りつけ等の業務 等)
※関連業務として旅館やホテル内における販売、備品の点検・交換等

「特定技能」のメリットはともに現場で働くことが可能であるという点です。「技術・人文知識・国際業務」や「特定活動(46号)」の様に業務内容に関する制限はありません。

一方で、ビザの取得がかなり複雑で大きく申請時のコストやランニングコストがかかってしまいます。雇用する会社にも条件があり、その中でも一番条件をクリアすることが難しいのが”外国人受け入れの体制があること”です。この条件がかなり厳しく、通常の会社であれば条件を満たすことはできません。そのため、外国人の支援業務を受入れ支援機関に委託する必要があります。この受入れ機関に支払う費用などで前述のように平均して採用時に30~40万円、月々に2~4円の費用がかかってしまいます。

d)技能(調理技能ビザ)

ホテル・宿泊業でも「技能」ビザで外国人の母国料理の料理人として働くことができます。ただし、この場合には原則として10年の実務経験があることなどを証明する必要があります。実務経験についての虚偽申告も多いことから入管は許可を出すのに慎重になっており、許可のハードルは高めです。

また、この技能ビザの対象になる前提として、勤務する店舗が外国人料理人の方が日本で調理する外国で考案された料理で、日本において特殊なものを提供していることなどが必要になります。ウェイターやレジなどの単純業務をすることはできません。

e)日本人の配偶者等や永住許可などの身分系在留資格

「日本人の配偶者等」「永住者」「定住者」など一定の身分に基づいた資格を通称身分系資格と呼びます。このような身分系在留資格は他のビザにあるような就労の制限がありません。現場に出て接客やルームサービスの仕事をするのも事務所で経理や広報の仕事をするのも自由です。

したがって、単純に外国人の方を雇用する場合には「日本人の配偶者等」や「永住者」などの身分系の在留資格をお持ちの方を採用するのが一番簡単です。外国人の方を雇用する場合、「日本人の配偶者等」や「永住者」などの身分系在留資格をお持ちの方を雇用することを一番にお勧めいたします。

ただし、身分系資格はその方の”身分”に基づいているため、その身分を失うと同時に在留資格を失うという問題点もあります。例えば「日本人の配偶者等」では離婚した場合などです。このように会社とは関係のない、個人の事情により在留資格を失う可能性がある点にはご注意ください。

f)資格外活動許可のある家族滞在・留学ビザなど

家族滞在・留学ビザなどのビザで資格外活動許可を取得し、ホテル・宿泊業でアルバイトをすることができます。この場合、客室の予約受付や宿泊客の接遇などの単純作業も行うことも可能です。

資格外活動許可を得ている場合には在留カ-ド裏面下部に「許可:原則週28時間以内・風俗営業等の従事を除く」のように記載されています。また、外国人の方をアルバイトで雇用した場合には原則ハロ-ワ-クへの届出が必要になります。


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